人間という者はとかく弱い生き物であり、それだけに環境に左右されやすい。生真面目だった人でも取り巻く人達がいい加減であったり、無気力だったりすると何かと染まってしまいがちである。「入社当時の気持ちを思い出して頑張ろう」その気持ちは健気だが残念ながら長く続かないことが多い。大事なのは人を取り巻く環境を変えること、会社であれば組織風土であり規律ある制度設計である。企業は、人を育てる人財育成にはとても熱心だが、それに比べて組織風土の抜本的な解決にまで踏み込んだ事例は未だ少ないように感じる。
悪貨は良貨を駆逐すると言う言葉がある。金銭価値の違う同一表記の通貨が同時期に流通した場合、人々は銀の含有量が低い悪貨を先に使い、質の高い良貨は手元に蓄えたそうである。結果として市場には悪貨だけが流通するようになり、貨幣が不足していった。つまり、悪いものほど世の中に流通し、良いものはなくなる。悪がはびこると善が滅びる、不正を働く人ばかりだと善人も不正を働くようになるか、それが嫌で職場を離れていってしまい、益々職場は悪人であふれる。即ち、モチベーションの低い人がはびこると周囲へ伝染し、職場の活気をかき消してしまうのである。自分が善人であり続けることはとても大事なことだがそれにも限界がある。もっと大事なこと、それは職場の雰囲気を変えること、風土改善である。育てる前に人財を育む良質な土壌を創ろうではないか。
(1)まずは社員の意識の実態を把握:一般的に職場の風土改善には、エンゲージメントサーベイなどといったアンケート調査がよく用いられる。留意すべきは、社内の人事部などではなく社外の第三者で客観的に実施したい。社内アンケートだと「後で誰が何を言ったかバレるのではないか、正直に回答した者がバカを見るではないか」といった誤解が生じる。誤解ではなく実際に犯人捜しを行う会社もいるが、全く何のためにやっているか理解さえもされておらず、そのこと自体が風土悪化要因と言える。
(2)アンケート結果の定性データに着目:ありがちなのが、定量化されたアンケートが多いだけにどの部署に比べて点数が良い悪い、前回に比べて上がった下がったなど、点数と言う結果だけに一喜一憂しがちになる。大事なのは、結果に対する根拠や原因であり、それが分かるのが補足的に記載された定性データである。それを見れば結果に至った原因が見つかり、誤解も含めて少なくともこのような気持ちでこの判定をしたのだと理解できる。リストアップされた数々の生の声である定性データ、これは選択式の定量データに対して読み解いていくのにとても時間がかかるものの、まさに探し求める課題の宝庫であり、この記載内容に十分に耳を傾けたいものである。一般的にモチベーションが高い職場とは、やりたいことをやらせてもらえる、公平に評価される、給与など処遇に満足している、上司や同僚、部下とのコミュニケーションが良い、育成のためのシステムや知識ノウハウを共有するツールが整備されている、などといった内容が多いようだ。
(3)結果だけでなく対策内容をフィードバックする:最後に大事なことは悪い点はいつまでにどのようにして改善していくのか、また給与や処遇といった即答しにくいものは今後どのような流れで継続検討していくのか、それらを誠実にフィードバックすることである。聴いていて何もやらないとそれは失望感となり、次のアンケートからは本気で応えなくなっていくだろう。最悪は離職である。
真に「企業は人なり」と思うのであれば、人事考課や1on1等々、単に人事制度上の作業としてこなしていくのではなく、もっと時間をかけて人と向き合い、直面する課題や悩みに真摯に耳を傾け、解決の筋道をつける努力を惜しまないでいたいものだ。